●緊急時に、どのような対策をするか
現代という時代は、何もかもが豊かである。物質に限り、欲しい物は金銭さえ出せば、何でも手に入れる事ができる。深夜でさえも、欲しいと思えば、それを満足させる品物が揃っている。食料品は云うの及ばず、日用雑貨まで直ぐに手に入り、日常生活を営む上では、何の支障もない。
しかし、これはあくまでも「日常」という条件に限りの事である。一度(ひとたび)「非日常」へと変化すると、この一見常識と思われていた、日常生活は大いに混乱し、狂わされる。
元々、現世と言う世の中は、何が起こるか解らない。誰も予測する事ができない。災難は突然に遣(や)って来て、一寸先は闇(やみ)である。突然の大地震。台風や洪水や山崩れなどの自然災害。あるは有事による外国の軍隊の進入。
こうした「非日常」に転化した時、これまで通常通り営業されていた店舗は機能しなくなる。機能しなくなるばかりでなく、もう「非日常」では、店舗にも食料品や日常品が入荷できなくなり、売りたくても売る品物がなく、また買いたくても買う品物がない。これにより、住民はパニック状態に陥るだろう。
あるいは情報過多で、事実がぼやけて来る。何者かが囁き、そして事実無根のデマが飛ぶ。それに撹乱され、惑わされれば、自分自身を護ることも危ぶまれよう。そこで智慧を集積した現代流の、時代に則した「サバイバル術」が必要になる。
都市災害と言うものは、非常に恐ろしいものである。特に、「大都会」という都市は、一旦「非日常」に転ずると、予測のつかない大惨事が起る。安全である筈の機能が、一切機能しなくなる。
大都会にはビルが立ち並び、その一切の機能を電力が賄(まかな)い、コンピュータによって制御されている。こんな場所で、大地震が起ったら、あるいは高層ビルで大火災が起ったら、現代人はどのように対処できるのか。機能が停止した暗黒の中で、どう生き残る事が出来るのか。
人間は死ぬ為に生きている。生まれながらに死が約束されている。だが、人の死は、その死に方が問題になる。死の瞬間、臨終の瞬間、その人がどういう状態にあるかが問題になる。
大交通事故に巻き込まれ、想像を絶する死に方であれば、その「臨終の瞬間も、想像を絶するような断末魔(だんまつま)であろう。また、大地震に巻き込まれ、建物等に押し潰されて死んで行くのも、また断末魔に違いない。あるいは大火災に巻き込まれ、業火(ごうか)に焼かれて死ぬのも、酌熱(しゃくねつ)地獄なみの、想像に絶する断末魔であろう。
更に、他に忘れてならない事柄がある。日本は、外国に比べ、不安定な土地の上に生活基盤を築いている。多くの日本人は、日頃気付いていないが、日本列島と言う国は、南北に長く、同時にこの長い日本列島は「火山列島」でもある。良好な温泉地が多いと言うのも、実は日本が火山列島であるからだ。
あなたは、この日本列島について、どれだけのことを知っているであろうか。
わが国は、アジアの東北部の海上に浮ぶ小さな島国である。その面積は、約37万平方キロメートルで、フィリピンより広いが、タイに比べればかなり狭く、イタリアより広いが、しかしフランスの3分の2程度しかない。そして、アメリカ・カルフォルニア州よりもやや狭く、オーストラリアの23分の1程度の小さな島国である。
この狭い島国の上に、日本人一億二千万余りが生活をしているという事である。
島国の為、良港には恵まれているが、耕作可能面積は僅かに全体の16%しかない。したがって自給自足は不可能であり、「経済大国」という経済的な優位を以て、外国からあらゆる物資の輸入に頼っている。もし、この輸入が停止されれば、日本人の日常生活は、パニックに陥るだろう。その上に大異変や自然災害が起れば、この「非日常」はまさに大パニックで、人的被害だけでも相当なものになるであろう。
更に、多くの日本人が完全に忘れ、大いに見落としている愚かしいほどまでの「無意識」がある。おそらくこの無意識は、一度これを利用されれば、壊滅も時間の問題であろう。
それは、日本と言う国の「地理的位置」である。多くの日本人はこの地理的位置に、何も関心を示さない無意識がある。この無意識こそ、日本人にとっては「大元凶」となるであろう。この「大元凶」については、日本国民ばかりでなく、政治家すら見逃している者が多い。国民の生活基盤や、労働賃金問題に取り組む政治家は多いが、無意識の大元凶に気付いている為政者は少ない。
では、無意識の大元凶とは何か。
それは既に述べた通り、日本の「地理的位置」である。
現在、世界の三大強国と言われるのは、アメリカ、ロシア、中国である。この事が非常に大事である。
何故かと云うと、日本から、この三大強国に向かう時、全くそれ以外の第三国の領土や領海、及び領空を通過せずに、「直線コース」で往来できるという事である。
この「直線コース」とは、直線路という意味であるが、幾何学上から考えると、2点を結ぶ直線に沿う、距離の「最短距離」と云う事だ。
こうした地理的位置にある日本は、これ等の国と往来できるという事である。この「往来できる」という事を裏から見れば、最短距離を通って、侵略もされ易いという事である。外国が侵略して来る場合、まずこの「裏」を考えるだろう。これだけで日本は世界でも珍しい、特異な国の一つであると云う事だ。
この現実を、あまり深く考える日本人は居ない。
更に、以上の条件に加えて、日本ては、非常に高い生活水準並びに教育水準を持っていて、ここに一億二千万人余りの国民が暮らしている。また、アメリカに次ぐ工業力を持ち、あらゆる分野の産業技術は、世界でもトップクラスにある。その上に、国際情勢の動向から大きな影響を受け、同時にそれが、ある程度左右できる自国自身の自己コントロールを持っている。これは非常な長所であると同時に、また、それと同じくらいの短所を背負っている事である。ここに日本の元凶を背負う宿痾(しゅくあ)がある。
何故ならば、世界の武力紛争の枠内に、常に居ると言う事であり、些細(ささい)な軍事的な事件でも、日本はその影響を直ぐに受けるという事である。日本が戦争を放棄しても、世界が日本に戦争を放棄させない理由が、ここにある。
アメリカにとって、日本は有力な盟邦以外にあり得ない。アメリカは常にそう考えている。地理的位置に軍事的な戦略価値が大きく、更に経済的にも政治的にも、「極東の平和」と言う意味から考えれば、アメリカが日本に寄せる期待は非常に大きなものなのである。何故ならば、そこに日本列島と言う沈まない航空母艦があるようなものだからだ。
一方これに対し、ロシアは、ウラジオストック及びその他の沿海州の各港から、裏鬼門的な扼(やく)する関係にある事を承知しており、日本を極めて重要視している事である。ロシア側から見る沿海州の諸港は、これまでの歴史からも分かるように、伝統的に海洋に進出する機会を窺(うかが)って来た事は明白である。その証拠に今日でも、北太平洋方面の海軍部隊の動きが活発であるからだ。
また、ウラジオストックは北朝鮮の清津(チョンジン)に近く、ロシアの動き如何で、北朝鮮海軍もその影響かにあると言えよう。更に両国の漁船団なども、北洋海域での拡充に力を入れている。
更に中国に於いても、日本を観(み)る眼は同じであろう。日本より西北の海に目を転じれば、中国があり、ここには東シナ海や黄海があって、この地域の海域には、観測船、商船隊、漁船団、石油プラントなどが進出して、日本に圧力を掛けている。
こうした状況下で、わが国は出来るだけ中立的な立場に立って、友好的な雰囲気を盛り上げているが、この雰囲気が何処まで続くか問題である。こちらが友好的であっても、相手側が友好を好まないのであれば、この関係は突然険悪となる危険が孕(はら)んでいる。
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▲ 平成7年(1995)1月17日阪神・淡路大震災。
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その上に、大地震、大型台風や、その他の天変地異まで頭を悩ませねばならないから、日本とは、実に大変な国であると言う事が分かる。だが、こうした事は、殆どの日本人には頭にない。
1995年1月17日、午前5時45分頃、兵庫県南部地震による阪神淡路大震災を、日本人は経験した。この災害により、兵庫・大阪・京都の1県2府が被災し、死者6千3百人、負傷者4万3千人、全半壊家屋20万9千戸の損害を出した。
ここで日本人が見たものは、かつての関東大震災と異なる、神戸市内で阪神高速道路の高架橋やビルの倒壊であった。
その上、あらゆる機能が停止した。また当時の山村政権も無能だった。こうした最中の大地震だった。
都市機能は完全に麻痺し、政府ご自慢の情報通信網は全く機能しなかった。危機管理システムも機能せず、救出が遅れ、援助が遅れた事は、私たちの記憶に未(いま)だ新しい。
突然の大都市災害に対し、この大震災によって、総ての都市機能が無力になる事は、既に実証済みなのである。それにも関わらず、多くの日本人は、この事について考えようとしない。まるで夏を謳歌(おうか)して、やがてその後に、凍てつくような冬が到来する事も知らないキリギリスのように……。 |